COMPOSITE
【レンコン星】
人類は、重力制御装置の開発に成功すると同時に、遺伝子工学の飛躍的な進歩により、地球以外の宇宙環境においても生育する農作物を作り上げた。近い将来、他の惑星に人類が移住するために、月において移住環境を整備するプロジェクトが行われた。その中で、食糧の自給自足は不可欠であり、さまざまな植物の栽培実験が試みられた。宇宙ステーションと月での植物育成実験中、偶然に不老不死の物質成分が発見された。その物質は、レンコンに大量に含まれ、人間の寿命を大幅に延ばすことができた。月で育ったレンコンから、特殊な製法で抽出されたサプリメントは、人類の寿命を飛躍的に延ばすことができた。今では、富裕層の平均寿命は180歳にまでなった。これは、人生をもう一度やり直せる意味を持つ驚異のサプリメントである。高値で取引される月で栽培される宇宙レンコンは、世界中の富裕層の争奪戦となり、国家間での戦争にまで及ぶ事態となる危険が迫っていた。月では鉱物資源を開発する計画もあったが、莫大な利益を生み出す宇宙レンコンは、月全体で栽培され、月全体を100%覆い尽くしてしまった。今では、月のことはレンコン星と呼ばれている。
【月七区と呼ばれる水田に写るアポロ11号】
不老長寿の成分を含む宇宙レンコンが発見され、莫大な利益を得るために、月面でのレンコン栽培が始まると、瞬く間に月はレンコンで覆い尽くされてしまった。 それ以前の月は、人間が近い将来、他の惑星に移り住むために必要な、さまざまな技術を得るための実験が行われていた。 人類は他の惑星に移住する夢を持っていた。 地球から遠く離れた惑星に行き、帰って来る必要な技術、それは、すなわち自給自足できる環境創成であった。遠い星へ、大量の物資を運ぶことは、不可能であり、効率も悪かった。唯一可能な方法は、現地調達であった。 1969年7月、人類として初めて月面に降り立ったアポロ11号。月面の「静かの海」に、着陸船「イーグル」は着陸した。人類が偉大な一歩、足跡を記した大地で、自給自足の実験は開始された。開発は順調に進み、空気、水の生産、重力の発生に成功し、農業のできる環境が整った。かつての「静かの海」は、水田として、食物生産実験が行われ、最終段階に及んでいた。アポロ11号の降り立った海(静かの海)は、開拓されて農地となった。ここの開発実験にかかわる人々は、この場所を「月七区」と呼んでいた。
【月はレンコンの巨大産地】
月七区で農地開発が順調に進むと、稲作だけでなく、さまざまな植物の栽培が始まった。月七区で育った植物は、地球には存在しない特殊な成分を含んでいることが発見された。その成分は、動物実験から、寿命を延ばす効果があることが証明された。なかでも、レンコンには大量の不老長寿成分があることがわかると、月七区以外の、鉱物開発を行っている場所でも、レンコンを栽培するようになっていった。10年足らずの間に、月はレンコンの巨大産地となってしまった。
【不老長寿サプリメントを運ぶシャトル】
月がレンコンの巨大産地になると同時に、月面の精製プラントは無人ロボットにより、フル稼働で不老長寿成分を取り出し始めた。すると、地球の一部の特権階級と優秀な人間にしか手に入らなかった不老長寿サプリメントは、多くの裕福層も入手可能なモノになった。それにより、地球では、貧富の差による寿命格差の問題が起きた。一般人の寿命は約90才、裕福層の寿命は約180才。2倍の格差が起きた。ただし、このサプリは、病気を治す万能薬ではなく、健康な生活を送っている人間の寿命を延ばす効果をもっている。不老長寿成分は、濃縮され重量を極力軽くして、シャトルにより地球へ定期的に運ばれた。地球からは、レンコンの親株が運ばれていた。
【特別警戒地区を守る潜水艦】
宇宙レンコンから抽出された不老長寿成分を含む、非常に高価なサプリメントは、一部の国の政府高官と裕福層でなければ手に入れることはできなかった。そのため、平均寿命は、裕福層180才、一般庶民90才と2倍の格差を生み、大きな社会問題になっていた。 不老長寿サプリメントを生産できる国は、先進国の数か国しかなく、その国の限られた製薬会社が、生産技術を握り、莫大な利益を得ていた。 不老長寿サプリメントを生産できない国の中で、独裁者や特権階級、テロ国家の指導者、マフィアのボスなどは、不老長寿サプリメントを、のどから手が出るほど欲しがっていたが、生産国は、サプリメントの輸出に厳しい制限を設けていた。 また、一般庶民の中からも、平均寿命の格差に対する不満が募り、大規模なデモが発生した。宗教的な理由からも、テロ行為が発生するようになっていた。 地球で、宇宙蓮根の親株の開発研究を行っている地域では、特別警戒区域に指定され、国家による警戒が行われていた。
【宇宙蓮根の親株を運ぶ輸送機】
月面で生産される宇宙レンコンから抽出された不老長寿成分を含む、サプリメントは、一部の国の政府高官と裕福層でなければ手に入れることはできなかった。非常に高価なサプリメントを飲み続けると寿命は180才にまで延ばすことができる、奇跡のサプリメントであった。 不老長寿サプリメントを生産できるのは、一部の数少ない先進国、その国の限られた製薬会社であった。 不老長寿サプリメントを生産できない国は、そのサプリメントを生産国から輸入するしかなかった。独裁者や特権階級、テロ国家の指導者、マフィアのボスなどは、不老長寿サプリメントを、のどから手が出るほど欲しがっていたが、生産国は、サプリメントの輸出に厳しい制限を設けていた。 不老長寿のサプリメントは、権力の座についている人間や、富を握る人々にとっては、どうしてもて手に入れなければならないモノであった。現行の体制を維持し続けるために、寿命を延ばす必要があった。 そのために、地下組織がひそかに暗躍していた。また、国家の外交交渉においても、不老長寿サプリメントが秘密裏に使われていた。 サプリメントの生産に欠かすことのできない、レンコンの親株は、厳重な警備が行われている地区から、空輸され、月面の栽培プラントに運ばれていった。
【不老不死伝説】
人間にとって、永遠の命は、古くから憧れであった。 日本では、月面の模様は、ウサギが餅をついていると言われてきた。 中国では、ウサギが薬草を手杵で打ち粉にし、不老不死の薬を作る手伝いをしていると言われてきた。 宇宙蓮根の栽培が、月全体に広がり、今では月のウサギの模様は見ることができない。 また、日本では、竹から生まれた「かぐや姫」が、美しい娘になり月に帰って行く、おとぎ話がある。地球の宇宙蓮根の研究施設がある特別警戒地区では、毎年10月の15夜に、「かぐや姫川船流し」というイベントを開催し、宇宙での安全祈願が行われていた。
【長寿が生み出した世界】
宇宙蓮根の不老長寿サプリメントができたからといって、世界が平和で人類が楽しく幸せに暮らせるわけではなかった。貧富や地域格差は依然として広がり、戦争もテロも起こっていた。人類すべてが不老長寿になることなど、あり得ない話であった。不老長寿の効能を持つサプリメントは、人類に恩恵をもたらす人間が使うことで、他の人類にも貢献する目的で、使用が許されていた。それは建前で、現実には、悪事を働いたり、不正行為を行って巨万の富を得た人間も使っていた。平均寿命が50年だった時代から平均寿命80年の時代を経て、不老長寿サプリメントの開発、医療技術の進歩により、人類の平均寿命は今も伸び続けていた。しかし、本質は、長く生きることではなく充実した人生を送ることであり、不老不死サプリメントの使用をより制限する市民活動が活発になっていた。